『妹兄とマンホールの蓋』は、第39回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、2026年10月30日にヒューリックホール東京でQ&Aが行われました。監督のミルチョ・マンチェフスキと、出演者のサラ・クリモスカ、フィリップ・トライコビッチが登壇し、作品の着想や制作過程が語られています。
銅像が盗まれた実体験が着想の源
監督の自宅近くにあった銅像が実際に盗まれた体験から、この物語が生まれた。
マンチェフスキ監督は、自身の家の近くに銅像が置かれていたが、現在は台座だけが残っていると説明。その後、銅像のレプリカが作られたものの、それもまた再び盗まれたといいます。「盗まれ、消え、また盗まれる」という現実の記憶が、本作の着想の源の一つとなっています。
作品の舞台とあらすじ
舞台は北マケドニアの首都スコピエの周縁部。貧しい兄妹が金属を盗んで生計を立てる物語です。
- 主人公は、貧しい生活を送る兄妹ヴィクトルとマリナ
- 銅製の胸像やマンホールの蓋を盗み、スクラップとして売ることでその日の糧を得ている
- ある日、盗み出した国家的英雄の胸像がヴィクトルの足の上に落下し、大けがを負う
- この事故をきっかけに、兄妹はスコピエという都市の底辺をあてどなくさまよっていく
監督が目指したもの
金属を盗んで暮らす人々の視点から、社会を描くことを目指した作品です。
マンチェフスキ監督はリサーチを好み、調査を通じて鉄くずが1キログラム当たり3ユーロで売買されていることなどを知ったといいます。こうした調査を重ねるなかで、実際に金属を盗んで暮らす人々の視点から物語を描きたいと考えるようになりました。
彼らは社会のなかで不可視の存在とされ、英雄的なものとは正反対のものとして扱われていると監督は語ります。さらに、現代社会が抱える大きな問題の一つとして経済格差を挙げ、その主題を扱いながらも作品が説教臭くならないよう、あくまでユーモアを交えて描くことを意識したと述べています。
出演者が語った制作の裏側
俳優たちもリサーチに参加し、役を共同で作り上げていったといいます。
マリナを演じるサラ・クリモスカが劇中で披露するダンスについて、クリモスカは「ダンスはあらかじめ脚本にも記されていた一方で、マンチェフスキ監督とともにリサーチを重ねるなかから、いわゆる『風変わりな』ダンスを考案し、即興で披露した部分もあった」と明かしました。
また、リサーチは監督だけが担うのではなく、俳優たちも加わって共同で進められたとのこと。役を外から与えられるのではなく、調査の過程からともに立ち上げていく協働のあり方がうかがえます。
劇中に登場するブラジルと盲目の女性の意味
劇中のブラジルは想像力を通じて構築された架空の場所。盲目の女性は赦しの精神を体現する存在です。
劇中に登場するブラジル、あるいはブラジルを想起させる事物について、監督は「そうした場所は実際の地図に公的に記載されているわけではなく、『コパカバーナ』という名称からのインスピレーション、サッカーをめぐるイメージも含めて、想像力を通じて構築されたものだ」と説明しました。兄がサッカーを愛好していることに加え、作中にスラム街も現れます。
また、劇中で兄妹が交流する盲目の女性は、自らの子どもが兄妹の手にかかって命を落としたことを知りながらも、なお二人を無条件に歓待する人物として描かれています。監督は彼女を強靱さと赦しの精神を兼ね備えた存在と説明しました。
Q&Aで語られた作品のテーマ
「家族を築きたい」という願いが、トトウという人物像に込められています。
トトウという人物像には、兄妹がともに抱く「家族を築きたい」という願いも込められています。それは必ずしも血縁によって結ばれた家族ではなく、他者と関係を取り結び、連帯するなかで形づくられていく家族のあり方だと監督は語り、トークを締めくくりました。
第39回東京国際映画祭の開催情報
映画祭は2026年11月4日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催中です。
『妹兄とマンホールの蓋』は、第39回東京国際映画祭コンペティション部門の一作。北マケドニアの貧しい兄妹を通して、現代社会の経済格差や人間の尊厳をユーモアと寓話性を交えて描く注目作です。東京国際映画祭に足を運ぶ際は、ぜひチェックしてみてください。









