第39回東京国際映画祭の日本映画クラシック部門で、相米慎二監督の1990年作「東京上空いらっしゃいませ」の4Kデジタルリマスター版が上映され、その後のトークイベントで驚きの誕生秘話が明かされました。脚本のベースとなったのは、映画制作会社「ディレクターズ・カンパニー」の脚本公募で第1位を獲得した作品ですが、その作者はなんと松竹の社員のペンネームだったのです。
脚本公募1位の正体は、松竹社員の榎望氏
脚本家・榎祐平は、後に「血と骨」などをプロデュースする榎望氏のペンネームだった
トークイベントに登壇した東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏(当時は松竹社員)によると、本作のベースとなった脚本は、榎祐平氏が応募した作品。しかし榎祐平氏とは、市山氏の先輩にあたる松竹社員・榎望氏のペンネームだったのです。
- 榎望氏は映画制作を志して入社したが、別部署に配属された
- どうしても映画の仕事がしたいという思いで脚本公募に応募
- 1位を獲得した脚本を、相米監督自身が「やりたい」と手を挙げた
当初はルビッチ風コメディ、相米監督の作家性で少女の成長物語に
元の脚本はエルンスト・ルビッチやプレストン・スタージェスへのオマージュにあふれていた
市山ディレクターは「僕も榎さんが応募したときの脚本を読みましたが、設定は同じでも、だいぶ違う脚本でした」と証言。当初のシナリオは、スクリューボール・コメディの巨匠たちにささげる内容だったといいます。
- 撮影中、相米監督から「このシーンを書きかえるから」と何度も現場に呼び出された
- その場で脚本を書きかえる日々
- 結果的に「ある一人の少女の成長物語」という相米監督の作家性に引き寄せられた
- 完成作を見た榎氏は「ルビッチで始まったのに、『愛と死をみつめて』みたいになってたよ」と語った
榎望氏は2023年に逝去。市山ディレクターは「本当はこの場にいらっしゃって、もっといろいろな話をしてほしかった」と悼みつつ、4Kデジタルリマスターとして復元され多くの人に再び見てもらえるようになったことを喜びました。
海外での評価と巨匠たちとの連続性
相米監督の海外での認知度は「本来評価されるべき水準に達していなかった」
映画評論家のクリス・フジワラ氏は、エディンバラ国際映画祭で相米監督の特集を準備するために本作を初めて鑑賞。それまで海外での上映機会は極めて限定的で、英語圏での本格的な評論もほとんどなかったと指摘しました。
- エディンバラ国際映画祭で全13本の長編映画を一挙上映
- 現地の観客から非常に好意的な反応を得た
- 後にナントやパリなどでも回顧上映が行われ、ヨーロッパでの評価につながった
また、「魚影の群れ」上映時には女優のティルダ・スウィントンが来場し、海の情景の荘厳さに両手を広げて感嘆したエピソードも紹介。フジワラ氏は、相米監督が好きだった清水宏、成瀬巳喜男、五所平之助ら巨匠たちとの連続性にも触れ、「不完全な人や自分をつかめていない人、迷える人たちへの温かいまなざし」が共通していると語りました。
まとめ:映画祭でよみがえる相米作品の魅力
第39回東京国際映画祭は11月4日まで開催中。今回明かされた誕生秘話は、映画ファンにとって見逃せないエピソードです。4Kデジタルリマスター版の「東京上空いらっしゃいませ」は、今後も上映機会が増える可能性があります。最新情報は東京国際映画祭の公式サイトをチェックしてください。









