ウェイン・ワン監督の新作『Diary of a Mad Old Man(原題)』は、第39回東京国際映画祭のガラ・セレクション部門で上映されました。本作は谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』を現代の東京に舞台を移し、脳卒中で半身不随となった老人と義理の娘の関係を描く官能ドラマです。リリー・フランキーが主人公ウツギ、ファン・ビンビンがヒロインのスースーを演じています。
キャスティングの経緯
当初は欧米人キャストと日本人女優の組み合わせを構想していたが、監督の予感で方針転換。
- 最初はブライアン・コックスやガブリエル・バーンを主人公に、義理の娘役を日本人にする構想があった
- ある日風邪で悪夢にうなされたワン監督が「日本でマーロン・ブランドが撮影するような映画になる」と直感し、市山尚三プロデューサーに方針転換を相談
- リリー・フランキーは『女が眠る時』での仕事で独特のユーモアとアドリブ力を評価しており、オファーを打診
- 義理の娘役のキャスティングは難航したが、中国人キャストのファン・ビンビンに白羽の矢が立った
ファン・ビンビン起用の理由
監督は近年の東京における中国人移住者の増加を実感していたことに加え、彼女の俳優としての姿勢に深いリスペクトを抱いていた。
- ファン・ビンビンは過去の事件で中国映像業界から締め出されながらも、インディペンデント作品に出演し続け、演技の仕事を全うする姿が印象的だった
- 監督は「彼女が演じるキャラクターは、何かに操られるような弱い女性ではなく、女性ならではの強さを持ち、逆にリリーさん演じる義父を操っているような明確なビジョンを持っていた」と起用理由を説明
制作体制と演出哲学
低予算のインディペンデント体制で、完全なアーティスティックな自由を確保した。
- ワン監督は「自分の年齢を考えるとこれから先つくれる作品は数限られてしまう。たとえ出資者であってもクリエイティビティの面では口を出してもらいたくなかった」と語る
- 日本の映画学校を卒業したばかりの若いスタッフを積極的に起用し、彼らのアイデアも現場で採用
- マスターショット(引きの映像や長回し)を多用する手法を好み、細かくカットを割らない理由は「俳優たちにありのままの自分でいてもらえるから」
- 脚本はバイブルとしつつも、役者が自由に演技できる余白を残すことが重要
学生へのアドバイス
「今の時代、iPhoneなどもあって、お金をあまりかけずに映画がつくれる。つくれないという言い訳はまったくきかない。とにかく外に出て映画をつくってしまった方がいい」
ワン監督はマスタークラスの締めくくりに「自分はなぜ映画をつくり続けるのか、と自問し続けている。キャリアを通して常に“人間”というものを意識して映画をつくってきた。別に説教くさい話をするつもりはないが、それがこの世界に対して自分ができるひとつだと信じている」と語りました。
まとめ
本作は現在、東京国際映画祭での上映が行われました。今後の一般公開や配信情報はまだ発表されていませんが、ワン監督の最新作として、キャスティングの意外な経緯と熟練の演出哲学が光る注目作品です。









